顎関節症

人間の顎は意外と繊細にできています。そんなにつよく食いしばっている訳ではないのに、長時間かるく奥歯をかみあわせているだけで簡単に顎の周囲や耳の前の部分に痛みが出たり、口を開けたり閉めたりがしにくくなったりします。本来は上下の歯は食事の時だけ接触して仕事をするようにできているのです。

どんなにきれいな歯並び・かみあわせでも長時間かみあわせていると、あごの周囲の組織に破壊的な影響を及ぼすことがあります。逆にどんなにひどいかみ合わせでも長時間のかみしめ、くいしばりをしなければ病的な変化はほとんどおこりません。長時間の噛みしめと悪いかみ合わせは相乗効果で病的なストレスを顎の周囲組織にかけることがあります。これは顎関節症の大きな原因の一つです。

ここまでをもう少しくわしく説明します。

なんでかみしめるのか?姿勢は大きな要素です。まずまっすぐな姿勢から、頭部を前方に出すにつれて自然と上下の歯の接触が強くなるのがご自分でもわかると思います。そのような姿勢では頭をささえる 筋肉の疲労もひどく、そのための頭痛も起きてきます。また、かみしめがひどいと、側頭部から後頭部にかけての頭痛も激しくなります。これも筋肉の炎症からおこります。最近はコンピューターの長時間使用による姿勢の変化とそれにともなう噛みしめによる、このような顎の周囲の痛みや頭痛がよくみられます。背筋をのばしたきちんとした姿勢をしましょう。また、長時間のデスクワーク・コンピュータ作業の際にはときどき休息をとってストレッチングをしましょう。

寝ている間のはぎしり・くいしばりも問題です。起きている間は意識的に少しづつコントロールして、かみしめないようにできますが、寝ている間はそうもいかないですね。そのために、かみしめても顎に負担がかかりにくいように、きちんと調整されたマウスピースを寝ている間だけつけて貰うこともあります。「きちんと調整された」と言うことが大事で、いいかげんなものでは見た目が同じ様な物でも逆に破壊的に作用することもあります。また、顎の関節の状態の変化によってかみ合わせは変化してくるので、それにあわせてマウスピースを適宜修正することもしなくてはなりません。このマウスピースはからだの治癒を妨げる力を遮断する為のもので、いわば、骨折の際のギプスのようなものです。また、日常生活における精神的なストレスの増加、運動不足なども寝ている間の歯ぎしり・くいしばりがひどくなることに関与しているようなので、生活習慣の改善も重要です。

痛みはどこにおこるのでしょうか。おもに顎の関節・顎の周囲の筋肉に起ります。その部位によって、治療のアプローチが変わってきます。筋肉にひどく痛みがある場合は、筋弛緩剤や消炎鎮痛剤を使います。また、精神的なストレスが筋肉痛に関与している場合は、それに対する薬物療法を行ないます。筋肉の血液循環を改善するためにはマッサージ・運動療法が有効です。理学療法を応用する場合もあります。また、体質的に効果の期待できる場合は漢方薬を使用することもあります。マウスピースによっても筋肉の痛みにある程度効果があるようです。顎の関節に痛みがある場合は薬物療法に増して、マウスピースが有効なことが多く認められます。